2023年9月21日木曜日

『青島広志の東京藝大物語』

  『青島広志の東京藝大物語』(夕日書房、2023年:https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784334990152)をご近所図書館で借りて読んだが、なかなか面白かった。著者はすでに『作曲家の発想術』(講談社現代新書、2004年)で自身の来し方について少なからず語っているが、今回の『物語』はいっそう充実した(!?)内容を持つ。あまりに狭い特殊な世界を描いたものだけに読者数はかなり限られるかもしれないが、「人間的な、あまりに人間的な」種々のエピソードを私は楽しく読んだ。そして、このように愛憎入り乱れる話を一見淡々とした、だが、時折情念の炎を垣間見させる筆致で描き出し、最後まで一気に読ませる著者の筆力には感服した。

 なお、同書では実在の登場人物が「仮名」で呼ばれているが、日本の作曲界にある程度通じた読者にとってはこの仮名はあまり意味を持つまい。多くの人物について本名の察しがすぐにつくからだ(たとえば、「森揮一」など。この超一流の音楽家についてはいくらか辛辣に描かれているが、それを読んでも私は少しも驚かず、むしろ、「さもありなん」と思った。逆に驚いたのは「六森利忠」と名付けられた人物のことである。私は以前、たまたまこの人のブログ――もちろん、実名でのもの――を読み、篤実な音楽理論家だと思っていたのだが、著者の言うことが本当だとすれば、なかなかに難儀な人のようだ)。にもかかわらず著者が仮名を用いたのは、ギャグやカリカチュアとしての効果を狙ったからであろうか??