今日、大学の図書館で「へー、こんなものが出たのか」という本を見つけた。それはアンリ・ビュッセル『パリと共に70年 作曲家ビュッセル回想録』(岸純信・監訳、八千代出版、2024年。https://www.yachiyo-net.co.jp/archives/books/%E3%83%91%E3%83%AA%E3%81%A8%E5%85%B1%E3%81%AB70%E5%B9%B4-%E4%BD%9C%E6%9B%B2%E5%AE%B6%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%AB%E5%9B%9E%E6%83%B3%E9%8C%B2)。ビュッセルは1872年生まれで101歳まで長生きしたフランスの作曲家である。その作品は今や埋もれてしまっており、今やドビュッシーのピアノ連弾のための《小組曲》を管弦楽用に編曲者として彼の名を知る人がほとんどだろう。
そんなビュッセルだが、近・現代のフランス音楽史の貴重な証人としては貴重な存在であり、邦訳が出る意義は十分にあると思われる。というわけで、興味のある人は手にとってみられるとよかろう。
ところで、同訳書の監訳者が述べている通り、このビュッセル本は過去に一度翻訳されている。それは池内友次郎によるものなのだが、抄訳だった(1966年、音楽之友社刊。書名は些か異なる)。とはいえ、実のところこの池内編訳の意義は本文というよりも、むしろ、その間に挟まれた註釈にある。いや、「註釈」という言い方は正しくない。それはフランスで学んだ池内の手になる「フランス(パリ)音楽(作曲界、そして、音楽院)事情」を述べた随筆なのだ。が、これがまことに面白い。こちらは版が途絶えて久しいが図書館や古書で読めるはずなので、やはり興味のある人には一読をお勧めしたい。