私はプラグマティズムの支持者だが、なぜかこれまで鶴見俊輔の名著だとされる『アメリカ哲学』(1950、増補新版は1971)を読む機会を得なかった。たぶん、「古い本」だという意識が自分の中にあり、知らずしらずのうちに先送りにしていたのだろう。とはいえ、ずっと気にはなっていたので、先日、ようやく現物(『鶴見俊輔集1――アメリカ哲学』、筑摩書房、1991)を手に入れて読み始めた。やはり名著である。のみならず、その核心部分は少しも古びていないように思われた。
何よりも心を打たれたのは、そこで書かれている言葉、そして、説かれている考えが実によくこなれていることだ。難解なチャールズ・サンダース・パースの思想とその背景なども、若き日の鶴見の手にかかると「生きた」言葉(たとえば、普通は「可謬主義」と訳されるfallibilismという語に「マチガイ主義」とびっくりするような訳語が当てられているのだが、その説明が単純明快であるだけではなく味わいもあるもの)となって読み手に語りかけてくる(ので、私はこれまでウィリアム・ジェイムズの思想の方に心惹かれていたのに、「パースももっと読まねば!」と思わされた)。そして、それが何とも爽快な読書感をもたらしてくれるとともに、読み手の思考も十分に刺激してくれる。というわけで、続きを読むのが楽しみだ。