先に話題にしたジョージ・セルの伝記を読了した。それは1つの時代――指揮者が強大な権力を持ち、それゆえにこそじっくり演奏をつくりあげられた時代――の記録である。もちろん、何もかもがそろっている時代などありえない。今と比べて当時の方がよかったこともあれば、逆に悪かったこともあろう。というわけで、楽しく読みながらもいろいろと考えさせられた。いずれ再読することもあろう(なお、同書にはいろいろ誤記があったが、再版の機会があれば訂正されることを望みたい。たとえば、人名ではポーランドの作曲家ベルトが「バイルド」と表記されていたり、評論家のショーンバーグが場所によっては「シェーンベルク」と書かれていたりした。だが、それよりも気になったのは、作品の調性の誤記である。長調と短調が逆になっていたり、全く違う調性が記されていたりしたが、厳格で鳴らしたセルの伝記だけにこれはいただけない)。
その伝記を読む傍らで、手持ちのセルとクリーヴランド管弦楽団コンビのCDもいろいろ聴いてみた。いや、実に見事な音楽づくりである。それはまことに精密、かつ、緻密なものなのだが、決してつくりものめいてはおらず、音楽の流れは自然で生き生きとしているのだ。実のところ私個人としてはもう少し緩い、あるいは自由な感じの演奏の方が好きなのだが、それにもかかわらず、彼らの演奏に一定の説得力を感じずにはいられない。