2024年10月23日水曜日

ブリュノ・モンサンジョン『指揮棒の魔術師 ロジェストヴェンスキーの証言』

  セルの伝記に続いて(図書館から借りて)読んでいる(音楽関連の)本はブリュノ・モンサンジョン『指揮棒の魔術師 ロジェストヴェンスキーの証言』(船越清佳・訳、音楽之友社、2024年:https://www.ongakunotomo.co.jp/catalog/detail.php?id=203830)。こちらはあの旧ソ連を生き抜いた巨匠の証言だけに、まことに刺激的である。読み進めるにつれて「そんなことがあったのか?」という驚きと、「まあ、あの国ならば、そんなことがあっても不思議じゃないなあ」という思いが交錯する。これは必ずしも指揮者に関心がない人が読んでも十分楽しめるはずだ(なお、同書の原題はLes Bémols de Staline, Conversations avec Guennadi Rojdestbensky。「ゲンナジー・ロジェストヴェンスキーとの対話」という部分はともかく、「スターリンのフラット記号」というのは、それだけを見た者にとっては「?」な題名であろう。だが、本分を読めば、「なるほど!」と納得すること必定。「訳者あとがき」でこの巧みな原題に触れられていなかったのはちょっと残念。もっとも、訳文はとても読みやすく、訳註も親切で、とてもよい翻訳だと思う)。

ちなみに、私が所持しているロジェストヴェンスキーのCDはただ1つ。彼の妻であるピアニスト、ヴィクトリア・ポストニコワの『チャイコフスキー ピアノ曲全集』に収められた連弾用の民謡編曲がそれだ(つまり、ここでは指揮者としてではなく、ピアニストとして彼は参加しているわけだ)。もっとも、これはロジェストヴェンスキーに私が無関心だからではない。もっといろいろ聴きたいと思っているのだ。が、優先順員の問題で、なかなかそうはなっていないというのが実情である。とはいえ、件の本を読んだ今となっては彼の優先順位はかなり上がったので、これからいろいろ聴くことになるだろう。

このところ指揮者関連の本を読んでいるのは、森本恭正さんとのメイルのやり取りが影響しているのかもしれない。そこでの話題の1つが「指揮(者)論」であり、作曲家であるとともに指揮者でもある森本さんの体験談と考察は無類に面白いからだ。これはメイルのやりとりだけで済ますにはまことにもったいない。いずれ、「指揮(者)論」を森本さんが公にしてくれることを大いに期待したい。