HMVのショップ・サイトを覗くのが私の日課の1つ。昔に比べて買い物をすることはごく稀になってしまったが、どんなディスクが出ているかに興味があるのだ。このところ、気になるCDボックスがやたらに出てきて困るのだが、眼福(と言ってよいものかどうか……)で満足することにしている。
米国の指揮者、マイケル・ティルソン・トーマス(MTT)の80歳を記念してのものだとか。私がクラシック音楽を聴き始めた頃にはまだまだ中堅の一歩手前くらいの人だったのに……。それだけ月日が経ったということだ。MTTも(そして、もちろん私も)年老いたわけである。
さて、そのCDボックスにMTTが寄せている言葉(上記リンク先を参照)の中でも、次の一節が目に留まる。曰く、「私がこれだけ幅広いレパートリーを録音することができた特別な時代の記録だ」。そう、まさにMTTがこれらのディスクを録音した時代はクラシック音楽業界に輝きと勢いがあった頃なのである。もちろん、今はそうではない。MTTが「特別な時代の記録」と言うのもむべなるかな。
その時代を知る人ならば、MTTの言葉、そして、このCDボックスに郷愁の念を覚えるかもしれないし、あるいは複雑な想いに襲われるかもしれない。では、今世紀に生まれ育ち、クラシック音楽の好んで聴く(ごく少数の)若者たちはどうなのだろう? 最初からこうしたものは目に入らないだろうか? それとも、自分の知らない時代の記録として興味を抱くだろうか?