今年はエリック・サティの没後100年でもあった(ちなみに彼の生年は1866年で、私のちょうど100歳上の人である)。うっかり忘れていた。
私の少年時代、すなわち、1980年代前半にはサティはようやくメジャーになりかけているときであり、録音もそう多くはなかった。それには楽譜の版権がまだ切れていなかったことも関係していよう。そして、その入手も容易ではなかった。
ところが、80年代の後半、ちょうどその版権が切れるや否や、折しも「バブル」の頃、全音楽譜出版社からまことに豪華なつくりの「ピアノ曲全集」が全世界に先駆けて刊行され始めた(当時、私は新刊が出る毎に買い求めた)。それは全13 巻に及び、これでサティのピアノ曲のほぼすべてに容易に触れられることとなったのである。また、新しい録音も次々と登場し、中には「サティ弾き」を名乗る人も現れた。
だが、今となってみれば、この国での「サティ・ブーム」はどこか当時の「バブル」と重なって見える。彼は面白いところのある作曲家ではあるにしても、本来ブームになるような人ではなかったのではないか? 件の「全集」もその後版が途絶え(今でも古書で、さほど高価ではなく入手可能。その抜粋版が出ているが、装幀は標準版のピアノ楽譜と同じもの)、新譜の数も減っていく。
私も現在、サティの音楽に触れることはほとんどない。が、彼の音楽が嫌いだというわけでもない。それゆえ、時折、ごく限られた作品を聴いたり、弾いたりしている。私が好むのは《ソクラテス》や《5つの夜想曲》といった、比較的落ち着いた感じの作品だ。