ラジオをつけると、J. S. バッハの《ゴルトベルク変奏曲》の弦楽三重奏版をやっていた。久しぶりにこの編曲を聴いたが、なるほどこれはこれで面白い。が、原曲の持つ「スリル」が少なからず失われているようにも感じられる。確かに三重奏だと「1人1パート」なので声部がはっきり分離して聞こえるのみならず、原曲では至難のパッセージも何とも軽々とこなされている。他方、原曲、とりわけチェンバロのように鍵盤が2段ではないピアノではなかなかそうはいかない。しかしながら、難所を演奏者がいかに巧みに切り抜け、ポリフォニーを鮮やかに弾きこなすかという点は、この作品の重要な聴きどころの1つではなかろうか。
もちろん、弦楽三重奏版にもそれなりのよさはあるし、たまに聴くと楽しい。が、どうせならばもっと大きな楽器編成であれこれ工夫した編曲があってもよいとも思う。
演奏系の学生にとって音楽理論はとても重要ではあるが、中途半端に和声や対位法の実習を課すくらいならば、楽曲分析をきちんとできるようにさせる方が格段に有益であろう。