2020年5月16日土曜日

私にとってもっとも偉大なヴァイオリニスト

 現代のピアノで古い時代の奏法を取り入れることはもちろん可能だが、音色についてはどうしようもない。アーティキュレーションやリズム、強弱の付け方などはあれこれ工夫できようが、現代のピアノの響きを逃れることはできない。
 その点、ヴァイオリンならば弓使いやヴィブラートなどの面で奏法を変えることで音色にも少なからず影響を及ぼすことができる。そして、それだけに多種多様な演奏の流儀が生まれうるわけで、HIPが少なからず浸透している現在にあっては、「理想的なヴァイオリン奏法」及び、「ヴァイオリニスト」というものを思い浮かべるのはなかなかに難しい。
 が、私個人の好みで言えば、20世紀でもっとも偉大なヴァイオリニストだと思われるのはダヴィッド・オイストラフ(1908-74)だ。先日もベートーヴェンの協奏曲の録音を久しぶりに聴いたが、音楽づくりもさることながら、「音」が決定的に数多いる(いた)ヴァイオリニストと違っており、とにかく聴き入ってしまった。ピアニストの場合にはそのように「一人」に絞ることは私にはできないが、ヴァイオリニストならば躊躇せずにオイストラフを選びたい。他にも音楽性や個性に魅せられる人はいろいろいるにもかかわらず……。いったい、彼の何がそこまで私の耳を引きつけるのだろうか? それはたんに「優れた解釈」でも「名人芸」でもない、この人にしか生み出し得ない「何か」なのだろうが……。