2020年5月22日金曜日

『世界の合唱作品集』に選ばれる日本の作品はといえば……

 『世界の合唱作品集』と銘打たれたCDボックスにどんな日本の作品が選ばれているのか――これはなかなかに好奇心をそそる点である:https://www.hmv.co.jp/artist_%E5%90%88%E5%94%B1%E6%9B%B2%E3%82%AA%E3%83%A0%E3%83%8B%E3%83%90%E3%82%B9_000000000044887/item_%E4%B8%96%E7%95%8C%E3%81%AE%E5%90%88%E5%94%B1%E4%BD%9C%E5%93%81%E9%9B%86-%E3%83%9E%E3%83%AB%E3%82%AF%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%83%89%EF%BC%86%E3%82%B7%E3%83%A5%E3%83%88%E3%82%A5%E3%83%83%E3%83%88%E3%82%AC%E3%83%AB%E3%83%88%E5%A3%B0%E6%A5%BD%E3%82%A2%E3%83%B3%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%96%E3%83%AB%EF%BC%889CD%EF%BC%89_10904274
 選ばれているのは次のものだった:

Disc8:日本
細川俊夫:蓮の花
武満 徹:風の馬
間宮芳生:合唱のためのコンポジション第1
武満 徹:うた IIより『さくら』/『翼』
近藤 譲:薔薇の下のモテット
武満 徹:うた Iより『小さな空』

これはなかなかに巧みな選曲である。欧米でも高名な細川、武満、近藤の手になる作品で固めつつ、「日本」らしさを間宮作品でさらに強めているのだから。そして、ここに彼らの「オリエンタリズム」の1つのありようがうかがわれる点でも実に面白い。
 たとえば、こうした「向こう」の人たちが選んだアルバムに信長高富(1971-)、すなわち、現在、日本でもっとも人気と実力のある合唱曲作家の1人の作品が入ることはまずあるまい。作品の出来不出来のゆえではない(私が知る限りでの信長作品はどれも見事かつ魅力的である)。「彼ら」が抱く「日本」イメージに合致しないからだろう。あるいは、「所詮、器用なモノマネにしかすぎず、取るに足りない」と「彼ら」は考えている(それ以前に、そもそも視野に入っていない)のかもしれない。
 日本における「西洋」音楽の現実と、「向こう」の人たちが「日本」に見て取っている(あるいは「見たい」)音楽の現実のこうした「ズレ」や「溝」は他のところにもいろいろと見つかるだろう。もちろん、これが「向こう」と「こちら」のどちらが「よい/悪い」とか「正しい/間違っている」とかいった問題ではない。この「ズレ」自体が1つの「現実」なのであって、私はそこに面白さと興味を覚える。