昔々、自分もそんな「ぽつぽつと鳴る」作品を異なる流儀でいくつか書いている。下にあげたのはそのうちの1つ、〈夜の音楽・Ⅰ〉(1992)(まあ、これは作曲というよりも、音の遊びである)。ピアノのための曲で、テンポは四分音符=30~60の間で奏者が由に選んでよいことにしてある(譜中の▼は「強いスタッカートののち、素早くペダルを踏んで音を残す」ことを意味する)。ごく限られた音しか使われていないので、夜に聴くと心地よい眠りに誘われるかも……。
この曲には〈Ⅱ〉と〈Ⅲ〉も続く予定だったが、〈Ⅱ〉は書きかけの楽譜がどこかへいってしまい、〈Ⅲ〉は書かずじまいだった。また、各曲は同じ曲、あるいは異なる曲を異なるテンポで同時演奏してもよいことにしてあった。〈Ⅰ〉しか楽譜が残っていないので、これを複数の奏者が同時演奏するしかないが、改めて〈Ⅱ〉と〈Ⅲ〉を書き足してもよいかもしれない。ともあれ、この曲は聴き手もさることながら、演奏者が自分の音に耳を澄ませて楽しむものとして書いたものだ。