とはいえ、もちろん卒業生のすべてが「プロ」になっているわけではない。それどころか、音楽とは全く別の道へ進んだ者も少なからずいるはずだ。では、そうした卒業生にとって、この学校に学んだ体験はその後の人生の中でどのような意味を持ったのだろうか? 中には「貴重な体験だった」と肯定的にとらえている者もいれば、「あんな学校へ行くんじゃなかった」と後悔している者もいよう。ともあれ、この高校は「進学目的」が極めてはっきりしており、在学中は競争に次ぐ競争で常に厳しい現実を突きつけられるだけに(と私が言えるのは、インフォーマントが1人いるからだ。もちろん、1人の卒業生の体験を一般化するつもりはないが、そこに何かしら真実があるのも確かだ)、卒業生にとっては在校時の体験は良くも悪くも強烈なものとして残っていることだろう。
そうした音楽とは別の道に進んだ卒業生でこの学校での体験を少なくとも否定的にはとらえていない人たちの生き方に、私はむしろ興味を覚える。彼(彼女)らに尋ねてみたい。「現在、音楽はあなたにとって、どのような意味を持つのですか?」と。そして、どんなに些細な点ででもよいが、彼らにとって(西洋芸術音楽に限らず)音楽が何かしら今でも「よき」ものであってくれればいいなあ、と思う。