2020年5月15日金曜日

楽譜を素直に読むと……

 たとえば、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第17番第3楽章(次の動画の1806秒から:https://www.youtube.com/watch?v=hl_6lAvMsKE)。その左手の音型に注目されたい。最初の音は16分音符で短く、次の音がずっと延ばされている。普通ならばここはすべてが16分音符で記され、ペダルで響きが保たれるようにされるはずであり、事実、そのように弾いている演奏も少なくない。だが、ベートーヴェンはそうは書いていない。そして、動画のようにその通りに弾くと、随分感じが異なって(それどころか、かなり異様に)聞こえる。
あるいは第30番第1楽章(https://www.youtube.com/watch?v=8JZGiY--2LM)。これもついペダルを使って弾きたくなるところだが、やはり作曲者はその指示を出していない。それが決して「書き忘れ」ではないことは、その少し後にきちんとペダルの指示があることからわかる。そして、これもまた「書かれた通り」に弾くと、ペダルを使ったありがちな演奏とはかなり違った感じがする。
私は必ずしも「原典至上主義者」ではなく、長年の演奏の習慣の中でつくられてきた流儀にもしかるべき意義を認める者だ。が、それはそれとして、「馬鹿正直に楽譜に書かれたことを守る」ことも時には必要だとも思っている。そのことによって、そうした「習慣」が作品で見えなくしていたものが姿を現す可能性があるからだ。そして、「定番レパートリー」となっている作品ほどその可能性は大きい。ベートーヴェンなどはまさにその好例であろう。