欧米諸語と日本語の発声・発音の違いを知れば知るほど、こう思わざるをえない。やはり「ベル・カントで日本歌曲を歌う」というのは「木に竹を接ぐ」類のことだ、と。欧州(米)諸語のためにつくられた唱法をそれとは発声・発音の流儀が大きく異なる言語に当てはめるのには無理があるのではないか。たぶん、小手先の工夫をいくらしたところで溝は埋まらないばかりか、虻蜂取らずのことにしかなるまい(し、実際の歌唱をあれこれ聴くと、まさにそうなっているように感じられる。にもかかわらず、この「木に竹を接ぐ」ようなことを日本の声楽界が諦めていないのは「オペラ」のことが念頭にあり、大きな劇場で管弦楽に埋もれずに声を朗々と響かせるにはやはりベル・カントしかないからだろう)。
それゆえ、もっと根本的なところで「西洋音楽様式による日本語の歌」の唱法が探求されればよいと思う。そして、それには伝統邦楽(やそれを源流とする歌謡曲)が参照されるべきだろう。邦楽科を含む東京芸大や日本伝統音楽研究センターを持つ京都芸大などはまさにそうした探求の(のみならず、「日本語歌曲」の作曲に関しても)格好の場であるはずなので今後に期待したい(そうした唱法の探求は、新しい日本歌曲のみならず、「オペラ」とも異なる音楽劇の創案にも繋げて欲しい)。が、果たしてこの期待は満たされるであろうか……。