2020年7月15日水曜日

すべて捨ててしまうのはもったいない

 通称「芸大和声」、すなわち、島岡譲が中心となってつくられた教科書『和声――理論と実習』(音楽之友社)で示されていた方式が東京芸大で完全にフランス式に取って代わられてから数年経つ(それゆえ、「芸大和声」という通称はもはやふさわしくないので、以下、「島岡和声」と呼ぶ)。その影響は今、どのくらい生じているのだろうか?
 マニュアル化の度が過ぎるあまり、生きた音楽のありようから些か外れてしまっているところが「島岡和声」にはあり、それゆえに「和声法の教科書」としてこれが用いられなくなっても惜しいとは思わない。が、機能和声の表記法としてはなかなかのスグレモノなので、それまでもすべて捨ててしまうのはもったいないとは思う。少しでも機能和声から外れるとこの表記法は恐ろしく煩雑、かつ、融通が利かなくなるのだが、それはそれ。使える範囲内でありがたく活用すればよいのだ。
 現在の東京芸大での和声の教科書、林達也『新しい和声――理論と聴感覚の統合』(アルテスパブリッシング、2015年)には賛否両論あるようだが、私は基本的にはその方向性を支持する者だ。とはいえ、そこでのフランス式数字表記は和声の「形態」は表すものの「機能」は示さない(ドミナント和音に特別な数字づけがなされるという点で、いくらか機能がわかるところもあるものの……)ので、これは作曲専攻ではない初学者には不便かつ不親切だとは思う。そこで、必要に応じて(「機能」を暗示する)ローマ数字も併記し、楽曲分析に繋がるようにすればよいと思うが、どうだろうか。


 若き日のピエル・ブゥレーズが指揮する《春の祭典》:https://www.youtube.com/watch?v=QF1pTRR8l20。その身振りからは彼の音楽観(のある面)がわかって面白い。