1980年以降の武満の「響き」を精確に定着させる書法の巧みさには本当に唸らされる。この時期の作品でも、瞬間の響きだけについていえば、私は嫌いではない。が、その連なり方、織りなし方にどうしても引っかかりを覚えずにはいられないのだ。もっとも気になるのは「音」が多すぎる、ということである。言い換えれば、それ以前の武満作品で効果的に配置されていた垂直・水平両面での「間」が減ったということだ。そして、そうして充満している音が生み出す響きが「常に(必要以上に)美しい」という点にも何か居心地の悪さを覚える。
以前からずっと気になっていたオリヴァー・ナッセン指揮、ロンドン・シンフォニエッタの演奏による武満の大作《弧》をようやく聴くことができた(CDはもう生産中止だったので、中古で入手した)。期待に違わない見事な演奏だった。ただ、部分的にはもう少しテンポが「遅い」方がよかったかもしれない。が、この名作をかなりの水準の演奏で聴けるのはまことに喜ばしい(なお、同じCDに最初に収められていた《グリーン》の演奏がすばらしい。これを聴き、はじめてこの曲のよさがわかった気がする)。