以前、新聞に演奏会評を書いていた頃のこと。ピアニストの演奏について、「歌う」という表現を原稿の中で用いたところ、これにダメ出しが。担当者曰く、「自分もそうだし、普通の読者には『ピアノが歌う』という表現はピンと来ないだろう」。これには最初は面食らったが、考えてみれば「なるほど、確かにそういうこともあるかもしれない」と思い直し、その表現を削ったのである(とはいえ、「そのくらい比喩表現として認めてもよいではないか」とも今でも思わなくもない)。
この「ピアノが歌う」以外にも、ある範囲の人たちにはすっと理解されても、普通の人にはわからない(もしくは、わかりにくい)表現というものが西洋芸術音楽の世界には他にもいろいろあるだろう。いや、そこに限った話ではない。かく言う私も他ジャンルの音楽ではそうした表現にあれこれ出くわすに違いない。というわけで、ジャンル毎にその手の表現を集めて一堂に会させたら面白かろう。