すると不思議なもので、時折、思いがけない「出会い」の瞬間が訪れるのだ。たとえば、マイルズ・デイヴィスとの出会いがそうだ。40代前半のあるとき、なぜかふと彼の音楽が聴きたくなったのである。それまでほとんど関心がなかったのに(ただし、どこか心にひっかかるところがあったのは、以前、このブログで述べた通り)……。そこで試しに2、3枚聴いてみたところ、たちまち魅せられてしまう。そこで次々とアルバムを聴き、関連する書籍を読むうちに、すっかり彼の音楽の虜になってしまった。とともに、このミュージシャンの偉大さにただただ圧倒された。そして、このマイルズをきっかけに、他にも何人かお気に入りのジャズ・ミュージシャンができ、それまでの自分の「狭い」音楽の世界が少しは広がったのである。
近年でいえば、「歌(曲)」という分野に私はようやく出会いつつあるところだ。それまでは「自分は器楽志向(指向、思考)の人間で、声楽など関心外だ」と涼しい顔をしていたのだが(恥。それまでにも好きな声楽曲はあれこれあったのだが、今にして思えば、多分に「器楽」と同じように接していたのである)、あるときから「声」と「言葉」への興味・関心が急激に強まったのである。これも別に「お勉強」の結果ではなく、気がついたらそうだった、としか言い様がない(実は間接的なきっかけが1つあるのだが、これについてはまた機会を改めて……)。そして、この場合もやはり、自分の音楽の世界、ひいては他の世界もがさらに少し(だけにしても)広がりと奥行きを増しつつあるのを感じる。
運がよければ、生きている間にこうした「出会い」がまだ何度か訪れることだろう。さて、それはどんなものだろうか。そして、どんな驚きをもたらしてくれるだろうか。