2020年7月31日金曜日

嫌いではないのだが、好きにはなりきれない、でも……

 マルタ・アルゲリッチ(1941-)の演奏を私はあまり好まない。いや、精確に言えば、嫌いではないのだが、好きにはなりきれないのだ。

 今日も彼女がドイツ・グラモフォンに録音したショパンのアルバムを久しぶり聴いてみた。自由奔放でありながら決して野放図ではなく、しかるべき方向性を持つ演奏にはただただ圧倒される。が、なぜか、完全に説得はされない。何かしらもやもやが残るのだ。とはいえ、たまに彼女の演奏を聴いてみたくなるのだから、まことに不思議である(かつて同じドイツ・グラモフォンの大看板だったマウリツィオ・ポリーニに対しては、そんな気持ちにはまずならない。もちろん、これはあくまでも私個人の好みにすぎず、ポリーニが優れたピアニストであることを否定したいわけではない)。

 以前、一度だけアルゲリッチの実演を聴いたことがある。独奏ではなく、ベートーヴェンの第1協奏曲だった(アンコールでシューマンの〈夢の縺れ〉を弾いてくれた)。もはや解釈の良し悪しなど問題ではなく、そこに顕現しているものにただただ打たれた。「なるほど天才というのは数こそ少ないかもしれないが本当にいるものだなあ」とつくづく思った次第だ(ちなみに、これまで実演であれこれ聴いた演奏家で、その音楽や技に震撼させられた人はいろいろいるが、「これは天才だ!」と私が感じた人はこのアルゲリッチ以外には1人しかいない。まあ、これは私の出不精のしからしむるところでもあろうが)。