私にとってメンデルスゾーンは今ひとつ馴染みがたい作曲家だった。なるほど、ヴァイオリン協奏曲やいくつかの交響曲、そして、弦楽八重奏曲や《夏至の夜の夢》などにはただただ感服する。が、そのことと自分にとっての「近しさ」は別物だ。だから、それらの作品も聴くのはごく稀でしかなかった(ただし、そのときには大いに楽しんでいる)。
ところが、このところ必要があってメンデルスゾーンのピアノ独奏曲をあれこれ聴いていると、心の琴線に強く触れるものがあった。それは一連の「無言歌」である。「古典主義」的ロマン派作曲家メンデルスゾーンのピアノ曲の中でもっともロマン派に近いのがこれであろうが、とにかく、素直に「ああ、いいなあ」と思いつつ聴けるのだ。
メンデルスゾーンはピアノの名手であったらしいが、それにもかかわらず、ピアノ曲には大曲がほとんどないし、とくにこだわりのある曲種もあまりなかったようだ。その中で「無言歌」は出版されたものとしては8集、48曲も書いているのだから、よほど愛着があったのだろう(彼は大金持ちの家に生まれており、楽譜の売れ行きを気にする必要もなかったので、作品の「需要」に応じたわけでもなかろう)。
さて、現代の作曲家が「無言歌」を書くならば、どのようなものになるのだろうか?