このところホフマンの『ネコのムル君の人生観』(鈴木芳子・訳、光文社古典新訳文庫、2024年)をとても楽しく読んでいる(この新訳のことは2か月ほど前にここで話題にした)。この小説にはすでにいくつか邦訳があるのだが、その1つ(深田甫・訳、創土社、1974年)と比べてみると、この新訳は格段に読みやすい。しかも、懇切丁寧な訳註が章末や巻末にではなく、ほとんどの場合同じ頁にあげられているのもありがたい。些か古風な文体による旧訳にもそれなりに見るべきところはあるものの、今日の読者がまず手に取るべきなのはこの新訳の方であろう。とりわけシューマン・ファンには強くおすすめしたい(《クライスレリアーナ》を弾く人は必読!)。