この時期はベートーヴェンの「第9」が方々で演奏されていることだろう。これはもはやこの国の「年中行事」のようなものであり、聴き手もその脈絡の中で――「今年も1年間おつかれさま。思えばいろいろなことがあったなあ」といったような感慨を浮かべつつ――この作品を聴いてしまう。
いや、「作品を聴く」という言い方は正しくないかもしれない。何かを聴いていることに違いはないのだが、そこには多分に聴き手のいろいろな思いが投影されているのではなかろうか。
だが、それでもよいではないか。この行事に参加することによって何かしら充足感が得られるのならば。音楽は作曲家の言わんとすることを聴き取ることだけのためにあるのではないのだから。