2021年4月12日月曜日

昔、音友と全音のカタログは光り輝いていた

  私の少年時代(ということは、今から40年ほど前)、現代音楽を聴き始めた頃、音楽之友社と全音楽譜出版社のカタログは私には必須アイテムだった。そこにあげられていた日本の作曲家の出版譜の情報を知るためである。

 それを眺めているだけで、何だかわくわくした。作品には数行の説明文がついており、それがまた想像力をかき立てる。だが、地方在住の身となれば、(まず間違いなく売れないので)店頭に並んでいない現物を直接手にとってみることはできず、本当に買うと決めた楽譜のみを注文して取り寄せてもらって、ようやくご対面と相成ったわけだ。ただし、当時はそうそう買い物などできなかったので、それほど多くの作品を「見る」ことができたわけではない。それだけになおのこと、作品を垣間見せてくれるカタログは私に取って光り輝いて見えたのである。

 さて、それから10数年後、私は都市部に住むようになり、昔よりは少しは買い物の自由が増したのだが、何としたことか、そのときにはカタログからほとんどの楽譜が姿を消していたのである。元々、そうした現代作品には「商売抜き」のところがあり、いわば文化事業として出されていたわけだが、もはやそうしたことをしている余裕が出版社にはなくなったからだろう。

 音楽之友社はその後、ありがたいことにオンデマンドでの販売を始めたが、全音は時折、思い出したように「売れそうな」ものを再版するに留まっている(なお、両社ともに新しい作品を刊行してはいるが、昔に比べれば格段に点数が少なく、ごく限られた人のものしか出されていない)。こちらもオンデマンドにしてくれればよいのだが、まあ、そうもいかない事情があるのだろう。

 いずれにせよ、「現代の音楽」がまことに厳しい状況にあることはこうした出版事情からもはっきりとわかる。まことに寂しい限りだが、仕方あるまい。今や作曲家は出版社を介さず、インターネットを駆使して直接、受け手に作品の流通を図る人が出てきているが、やがてそれが主流になるのかもしれない。