2021年9月2日木曜日

ガスパール・トリオ

 これはすごい:https://www.youtube.com/watch?v=WcigaP7K0HM。演奏されているのはB. A. ツィマーマンの《プレザンス》(1961)である。この作品はただの三重奏曲ではない。それぞれの奏者が文学作品の登場人物に擬せられているのだ。すなわち、ヴァイオリン:ドン・キホーテ、チェロ:モリー・ブルーム(ジョイスの『ユリシーズ』)、ピアノ:ユビュ王(アルフレッド・ジャリの戯曲)なのだが、何ともすごい組み合わせである。ちなみにこの作品には5場からなる黒バレエ」という副題がついており、さればこそこの動画のように踊りが伴われるわけだ(ただし、スコアに踊りが具体的に指定されているわけではない。途中で一箇所だけ発せられることばはスコアにきちんと書かれている。曰く‘MERDRE’。これは『ユビュ王』の冒頭の台詞であり――意味は……ご自身でお調べください――、その直前の部分に作曲者の宿敵シュトックハウゼンの音楽が引用されている)

この《プレザンス》は作品自体もすばらしいが、パフォーマンスも実に見事で、すっかりこの三重奏団、ガスパール・トリオのファンになってしまった。「クラシック」作品の演奏もまことに面白い:https://www.youtube.com/watch?v=k_jknESj68E(これは好き嫌いが分かれるかもしれないが、私は好ましく感じている)。実演で是非とも聴いてみたいものだ(まあ、その実現の可能性は低かろうが)。

手持ちの《プレザンス》のスコアを見てみると、「1989.6.26」と日付が記してあった。当時はまだ地方在住の学部学生で、大阪のササヤ書店から通販で購ったものである(後年、まさか大阪に住むことになるとはそのときは思ってもみなかった)。取り忘れていた値札には「¥5200」と記されていた。当時は一月ほぼ6万円で生活していたから、これは思い切った買い物であったことになる。が、それだけの価値は十二分にあったと今でも思う。