2021年9月6日月曜日

チッコリーニの《巡礼の年》

  アルド・チッコリーニ(1925-2015)はリストの《巡礼の年》全曲を2回録音しており、1回めは1954年になされている。今でこそこの曲集の全曲録音は珍しくもないが、当時としては画期的なものだったろう。すると、当時の聴き手にはこの録音(作品)はどのように聞こえたのだろうか。とりわけ19世紀後半の音楽としてはまことに前衛的であり、1954年当時にも(一部の曲を除いて)それほど弾かれていなかったはずの《第3年》などは。

 この古い録音は今聴いても十分に面白い。というのも、まだ作品に「手垢」があまりついておらず、演奏解釈に若々しさが感じられるからだ。そして、チッコリーニはこの曲集を7年後に再録音しているので、それと聴き比べる楽しみもある。後の録音の方が練れていてるところもあれば、逆に新鮮さが失われているところもあり、とにかくどちらもそれぞれに面白く聴ける。

 ところで、この《巡礼の年》という曲集にはいまだに解き明かされていない謎が少なからずあるように思われる。言い換えれば、まだまださまざまな演奏解釈の余地があるということだ。それゆえ、熟練のピアニスト、もしくは可能性を秘めた若いピアニストが全曲を取り上げる演奏会が近場であれば、是非とも聴いてみたい。