2021年1月12日火曜日

『蜜蜂と遠雷』を読む

 遅ればせながら恩田陸の『蜜蜂と遠雷』(幻冬舎、2016年)を読み始め、もう少しで終わるところだ。ずっと気にはなっていたのだが、なかなか自分の中で順番が回ってこなかった。が、先日、映画版を放送で観て、「これは原作を読んでみなければ」と思い、ご近所図書館で借りだした次第。

 巧みに読者を引き込む「物語」もさることながら、いっそう心惹かれたのはそこで描かれている演奏のありようの方だ。読みながら自分もともに演奏を聴いているような感じがして、興奮と感動を存分に味わった。そして、思った。「ああ、実際にこんな演奏を聴いてみたい!」と。

 

 ところで、映画版への不満はまさにこの点に関わる。なるほど、原作といろいろ異なるところがあるものの、それはさほど気にならなかった。異なるメディアで限られた時間の枠に作品を収めなければならない以上、そうした変更は仕方のないことであり、映画として面白ければそれでよいからだ。そして、その意味でこの映画はなかなか健闘していたのではないか。だが、この肝心の音楽は原作が描くもの同様に「凄い」ものでなければ、これをわざわざ映画にする意味はあるまい。そして、映画中の演奏は悪くはないものの、原作が味わわせてくれたような感動をもたらしてはくれないのである(作中でコンクール用の新作の課題曲として登場する《春と修羅》のつまらなさにもがっかり)。まあ、これはあくまでも私個人の感想にすぎないが。