2021年2月12日金曜日

「質」と「量」の微妙な関係

  一昨日に中村弦の『天使の歩廊』という小説を話題にしたが、この人の他の作品、すなわち、『ロスト・トレイン』(2009)と『クロノスの飛翔』(2011)も実に面白い。そこには独特の詩情があり、ノスタルジーをかき立てるのだ。まことに残念なことにここ10年ばかり新作が発表されていないが(たぶん、自己批判が強く、一定水準以下の作品は発表したくないというタイプの作家なのだろう)、いずれ過去の作品に劣らぬ、いや、それ以上の作品を発表してくれることを期待したい。

 小説に限らず、作品の「量」と「質」の関係はなかなか微妙である。徒に数をこなすと質の低下を招くことになりがちだが(事実、質などおかまいなしに作品を垂れしている小説家や作曲家は少なくない)、作品を書き続けて量をこなす中で質の向上がはかれたり、新たな発見があったりするという面もあるので、いちがいに寡作がよいとも言えない。難しいところである。