2021年2月14日日曜日

『記憶の海辺――一つの同時代史』

 池内紀(1940-2019)の回想記『記憶の海辺――一つの同時代史』(青土社、2017年)を読んでいる。さすがにこの著者――たんなる「学者」ではなく優れた「文人」――の手になるだけあって面白い。

「回想記」といえば、得てして本人と特殊な興味の持ち主以外にとってはどうでもよいことが(少なからぬ自慢とともに)延々と書き連ねられているものだが、「文人」池内はそんな野暮なものは書かない。少年期のことと留学時代にいくらか多めにページが割かれているが、その他は同学・同業の日本人の人名などほとんど出てこず、自身の仕事を振り返りつつ、実に見事に読ませる「文学」作品を仕立て上げているのだ。

私はこれまで池内の著作をそれほど読んではいないが、この『記憶の海辺』を読むと、他のものにももっといろいろ目を通してみたくなる。