2021年2月26日金曜日

もし、ブラームスがヴィーンに定住していなかったならば

  ブラームスは後半生をヴィーンで送ることになったが、もし、生まれ故郷の北ドイツにポストを得ることができていて、そこを本拠地としていたら、果たしてどんな音楽を書いていただろうか?――池内紀の「ウィーンもの」を読みながら、ふと、そんなことが頭に浮かぶ。あの何とも刺激的だが人間関係のややこしい都市で暮らしていれば、生まれも育ちもおよそ「ヴィーン的なもの」とは遠いブラームスとて、自ずと何かしら作品のありようにも影響を受けただろうと想像されるからだ。

 私はブラームスの音楽を好むが、それでも時折、何か妙に煮え切らないというか、せせこましいというか。屈託が多いというか、とにかく、そうした面が嫌になる。だが、彼の音楽にはもっと大らかで骨太、かつ、健康的な面も大いにあり、そうした面はヴィーンに住まなければもっと発展させられたかもしれない。

 もっとも、そうなると、お馴染みの数々の名曲は生まれなかったかもしれないし、今ほどブラームスの音楽が好まれていなかったかもしれない。ともあれ、ブラームスの音楽とヴィーンという街の関係はきちんと探ってみると面白かろう。