2020年6月22日月曜日

ブゥランジェ姉妹

 ナディア・ブゥランジェ(1887-1979)は20世紀の西洋音楽史を考える上でまことに重要な人物である。とても厳しい教師だったことはいろいろな門人の証言からうかがえる(たとえば、ミシェル・ルグランの自伝を参照のこと)が、たんに厳しいだけではなく、生徒の資質に応じて的確な指導を行っていたようだ(たとえば、アストル・ピアソラはブゥランジェに厳格な音楽理論の指導を受けていたが、あるとき自作のタンゴを見せると激賞され、そうした創作を続けるよう励まされたという)。そうした「門人」の証言や記録をまとめれば、彼女が残した足跡の大きさがはっきりするだろう。そうした研究の登場を期待したい。
 そのナディアの妹のリリ・ブゥランジェ(1893-1918)は作曲家だった。今日、久しぶりにその作品をいくつか聴いてみたが、その深みと凄みには圧倒されるばかり。つくづく夭折が惜しまれる。たとえば、次の曲などどうだろう:https://www.youtube.com/watch?v=eLxrA8cG2ZI
これは最後の作品《ピエ・イェズ》で、作曲者にはこれを書き上げる力がなく、姉に口述筆記させたものだという。このようなものを書く人がせめて後10年でも長生きしていれば、果たしてどんな作品を書いたことだろう?
 ちなみに、今日私が聴いていたCDはこの曲を含むリリの作品3つと、フォレの《レクイエム》をナディア・ブゥランジェが1968年にBBC交響楽団と合唱団を指揮した録音だ(彼女はフォレの弟子である)。いずれも素晴らしい演奏で、とりわけ《レクイエム》についてはこれ以上の演奏を私は知らない(とりわけゾクゾクするのが〈リベラ・メ〉で最初の旋律がユニゾンで回帰する場面だ)。まさに「文化遺産」とでも言うべき録音であろう。

 
 念のためyou tubeを探してみたら、上記の録音があったので、あげておこう:https://www.youtube.com/watch?v=17SFoAsX-UU