2020年6月21日日曜日

『Switched-on Bach』

 たまたまCD棚で目にとまったウェンディ・カーロスのSwitched-on Bach(ソニーミュージック、1995)を随分久しぶりに聴いてみた。ご存じ、シンセサイザーによるクラシック音楽編曲アルバムの先駆的存在である。
 原盤が出たのは1968年(当時、作者はまだ「ウォルター」だった。なお、手持ちのCDはその復刻ではなく、いくつかのアルバムから選曲されたもの)だが、これはグレン・グールドも賞賛し、冨田勲をシンセサイザーの世界へと誘うなど、当時、大きな衝撃をもたらした名盤である。
 事実、今聴いてもまことに面白い。が、同時に「昔懐かしの」という感じがどうしてもしてしまう。これはテクノロジーの進歩によるところが大きく、その6年後に出た冨田勲のシンセサイザー・アルバム『月の光』と比べてもかなり「素朴」に聞こえる(これにはカーロスと富田の音楽性の違いも関わっていよう)。
 こうしたことはこの『Switched-on Bach』に限ったことではない。昔制作された種々の電子音楽作品やテープ音楽にはほぼすべて当てはまることである。ただ、時の篩によって「技術面での新しさにのみ寄りかかっており、それが古びたがために価値を失ってしまった作品」と「技術が古びても何ら価値を失わない作品」が分別されたということはあろう(もちろん、その「分別」の内実は人によって違うだろうが)。そして、その意味で、少なくとも私にとって『Switched-on Bach』は「価値を失わない」部類に属するものだ。