2020年4月9日木曜日

シャランの和声課題がYou Tubeに

 YouTubeには本当に何でも投稿されていて驚かされる。昔ならば到底容易に聴けなかった作品だけではない。何と和声課題やソルフェージュ課題までがあれこれアップされているのだ。
 中でも目を引くのがフランスの音楽理論家アンリ・シャラン(1910-77。双子の弟ルネ(1910-78)も作曲家で、作品にはサンソン・フランソワによる録音がある。このルネの娘がハープ奏者のアニー・シャランだとか)の『380の和声課題』である。この課題集は全10巻、3和音に始まり、属7、副7、属9、種々の和音外音と進み、最後の2巻が高度なバス課題とソプラノ課題(chant doneé)に充てられている。これが何とも美しい課題集で、解答を弾いたり聴いたりしているだけでもけっこう楽しいのだ
 You Tubeにあげられているのは概ね、投稿者が課題を自分で実施したものである(たとえば、次のようなもの:https://www.youtube.com/watch?v=8v6zRkk-h5M)。作者自身の解答は公刊されているわけだが、それとは違うものを投稿者は示しているわけで、なかなか興味深い。

 ところで、和声の勉強というと、規則を学んでひたすら課題を解くものだと思われがちだが、私はこのやり方は(とりわけ必ずしも作曲を学ばない初学者には)無駄だと思う。それよりも、規則を学んだのちは優れた範例を自分で弾いてみて、課題の旋律だけを見て解答を弾けるようにし、かつ、12の調に即座に移調できるようにする方が遙かに勉強になるはずだ(そして、そののち、必要な人は課題を自分で解けばよい)。こうすれば、嫌でも和声の感覚が身体にすり込まれるからだ。ただし、この学習法が成立するには弾いて覚える課題が美しく楽しいものでなければならず(さもなくば、すぐに嫌になってしまう)、その意味でシャランの課題集はまことにスグレモノだといえよう。
 ただ、シャランの課題の解答は最後の2巻を除き、そのままでは弾けないかたちになっている(以下の部分は、この課題集にすでに取り組んだことのある人は読み飛ばしていただきたい)。すなわち、課題(バスの場合にはすべて和音の数字がつけられているが、ソプラノの場合にはない)ならば解答には課題とは反対の外声(バス課題ならばソプラノ、ソプラノ課題ならばバス)と注意を要する箇所についてのみ音の配置が音名で記されているだけなのだ。それゆえ、解答を弾こうとする者は、判じ物のような1声部しか記されていない楽譜を4声体に復元しなければならず、それには基本的な和声法の知識が必要となる。が、この「復元」の過程はそれ自体がなかなか勉強になるのだ(ちなみに、私はまず手書きで「復元」を試み、ついでそれを楽譜書きソフトに打ち込み、音としても聴けるかたちにしてある。380題すべてではないが……)。

 ちなみに、個人的な好みで言えば、シャランの課題集よりもジャン・ギャロン(1878-1959)やポール・フォーシェ(1881-1937)の課題集の方が(弾いたり聴いたりして楽しむには)私には断然面白い(もっと面白いのはシャルル・ケクラン(1867-1850)のものだ)。フランスの和声課題とその教育の流儀(そして、それを支える思想)はそれ自体、研究対象として面白いと思うが、誰かやってくれないかなあ(私がもう20若ければ取り組んだかもしれない……)。